こんにちは、はっこんです。
今回の記事では森博嗣さんの『今はもうない』を読んだ感想を書いていきたいと思います。
※本記事は『今はもうない』を読まれた方に向けて書いたものです
※以降ネタバレを含みます、ご注意ください
『今はもうない』はS&Mシリーズの第8作目です。
登場人物
- 西之園・・・・・・・・・令嬢
- 笹木・・・・・・・・・・公務員
- 石野真梨子・・・・・・・笹木のフィアンセ
- 橋爪怜司・・・・・・・・デザイナ、屋敷の主
- 橋爪清太郎・・・・・・・学生、怜司の息子
- 神谷美鈴・・・・・・・・モデル
- 朝海由季子・・・・・・・女優
- 朝海耶素子・・・・・・・女優
- 滝本・・・・・・・・・・橋爪家使用人
- 犀川創平・・・・・・・・建築学科助教授
- 西之園萌絵・・・・・・・建築学科4年生
あらすじ
避暑地にある別荘で、美人姉妹が隣り合わせた部屋で一人ずつ死体となって発見された。
二つの部屋は、映写室と鑑賞室で、いずれも密室状態。
遺体が発見されたときスクリーンには、まだ映画が……。
おりしも嵐が襲い、電話さえ通じなくなる。
S&Mシリーズナンバーワンに挙げる声も多い清冽な森ミステリィ。
感想
やはり神作ですね、本当におもしろかったです。
S&Mシリーズの中で本作が1番好きです。
ミステリィ要素と恋愛要素が絶妙に絡まっていて、読んでいるこちらもわくわくがとまらねぇ!
本作最大のトリックと言えば、やはり西之園でしょう。
皆さんは気づきましたか?
ボクは笹木が西之園に無礼を働いた時に、西之園が笹木に対して、
「なんて非常識な方!」
と言いながら強烈なビンタをお見舞いしたシーン。
なんだか違和感を感じました。
自分でもうまく説明できませんが、口調とかですかね、
あの方に似ているな〜なんて思ったりもしたのですが、
まさかなと思い過ごしてしまいました。
それにしてもこの笹木という男、なかなかおもしろい。
本作は笹木視点で物語が進んでいき、読者も笹木を通じて、発生したイベントを噛んでいく形であるが、笹木の西之園に対する子供のような下心が事件をそっちのけにして読者を楽しませてくれる。
最初はこのおっさん…、なんてことを!!
と思っていたのですが、最終的には、
もう事件なんてどうでもいい!この2人の物語の背景にすぎない!
という感じ。
西之園の気を引くため事件を解決しようとするところや、ムキになっているところ、積極的に話しかけにいくところなど、笹木の心情が事細かく描写されていた。
40近い笹木が10以上年下の西之園に悉く振り回され、読んでいて何度も笑ってしまった。
笹木が西之園嬢の名前を言い当てるシーン、プールにドボンするシーンなど、
若い時にしかない儚い青春のようでノスタルジィを感じてしまった。
まさにスイッチ・バック。
そして西之園嬢の最後のセリフ、
「笹木さん、貴方は、賭けには負けたのよ」
「え?何のこと?」
「紹介するわ。私の姪……。この子が、萌絵です」
このセリフで世界が一気に変わりました。
完全に騙されましたね。
西之園嬢のことが一気に好きになれる本。
西之園嬢あっての笹木、愛知県知事まで上り詰めることができたのも、
彼女の力によるものが大きいのでしょう。
事件の方に触れておくと、
亡くなった姉妹の義父である滝本によって作りあげられた密室だったが、
それに気づきながらも誰もそのことを口にしないというのが絶妙。
答えに行き着いた人は皆、滝本の娘たちを想う意思を汲み取ったのでしょう。
きれいですね。
西之園と笹木のやりとりも良いですが、滝本の行動とそれらを言及することを選択しなかった周りの人間たちも素敵ですね。
森博嗣さんの作品は終わり方がかっこ良すぎます。
その中でも本作品はボクのお気に入りなんですよね。
こんなかっこいい終わり方ができる作品は他にないと言っても過言ではないでしょう。
読み終わってからしばらく、鳥肌がたったままでした。
やはり傑作ですね。
樹々のトンネルをくぐり抜けるように、小さなトロッコを引いて機関車がゆっくりと上ってくる。車輪はスリップし、ときどき火花が散っている。ヘルメットをかぶった頑強な男たちが、大声で何かを喚き合っている。ディーゼルの排気が、彼らの手袋に染みついている。エンジン音と喚声、それに鳥の鳴き声。谷間を渡るトラス橋では、車輪がレールの継ぎ目を叩く音が鳴り、深い山林に遠くまで響く。
それらの音も、光も、少年の思い出とともに、地球上のすべての大気に飛散し、拡散し、消散して、
今はもうない。
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